Vol.0727:銀行の送金システムを変えてしまったエムペサ(M-Pesa)

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埜嵜 雅治

執筆者埜嵜 雅治

Beograd Consulting Group 
代表取締役CEO

固定電話知らない国民達

多くの先進国では、固定電話のインフラが整った後に
『携帯電話』が普及したので
携帯電話も固定電話も利用している人達は多いと思います。
(最近は固定電話を契約しない人が増加していますが)
しかし、これが新興国や途上国となると
まだまだ固定電話のインフラが整っていないため
『固定電話を使いたくても使える環境がない』
言うのがありますが
ただ『携帯電話のインフラ』は整っており
『固定電話は使えなくても携帯電話は使える』
と言う状況にあるわけです。
このような国々の人達は
固定電話は知らないけど携帯電話を知っていると
言う人達が多く
先進国が辿った
『固定電話 → 携帯電話』と流れを辿っておらず
『いきなり携帯電話』と言う流れを辿っています。
これと同じような流れが
『銀行』の分野でも、アフリカでは起きています。
今の先進国の国民にとって
『銀行口座を持っている』ことは当たり前であり
『銀行口座を持っていないと経済活動ができない』
と言うくらい、銀行口座が無視できない状態になっています。
しかし、これがアフリカですと
銀行口座を持っていない人達がまだまだ
たくさんいる状態で、銀行口座を持っていない人達が
たくさんいるからこそ
『銀行の先にあるイノベーション』
アフリカでは起きやすいと感じています。

エムペサとは?

2002年、イギリスの携帯電話会社『ボーダフォン』
イギリスの国際開発省は
同じ『問題』を解決しようとしていました。
マイクロファイナンス(貧困層向けの小口融資)は
牛やオートバイ、ミシンを買うためのわずかな資金を
融資し、ちょっとした事業の創業資金にしてもらうことで
その人達が、貧困を脱出するきっかけになることが多いです。
しかし問題は『アフリカでは多くの人が銀行口座すら
持っていない状況で、貧困層に融資をしたくても
送金ができない。(受け手が銀行口座を持っていないので)
この状況で、どうやってアフリカの貧困層を支援して
いったらいいのか?』と言う問題です。
そこで彼らが注目をしたのが『携帯電話』でした。
アフリカでは銀行口座を持っていない人達は多いですが
携帯電話の普及率は高く、ほとんどの成人が携帯電話は持っているのです。
そして、先進国のような
『毎月〇〇USD』と言うような、毎月のランニングコストが
かかるものではなく
『利用する分だけチャージをする方式』の携帯電話と
なっており
アフリカでは『通話時間が通貨の役割を果たすようになっていた』
のです。
イメージとしては、コンビニなどで販売されてる
iTunesカードをiPhoneにチャージするのではなく
そのiTunesカードで、肉や野菜を買ったりする
イメージです。
そこで、彼らが考えたのが
『携帯電話の通話時間を使って
融資を引き出したり、返済したりするようにできれば
貧しい国々の起業家を後押しできるのではないか?』と。
そして誕生したのが『エムペサ』でした。
参照:M-Pesa

送金システムを変えたエムペサ

2007年、エムペサはまず
ケニアからビジネスをスタートさせます。
多くの人が銀行口座すら持っていないような国ですので
エムペサがまず取り掛かったのが
『個人のエージェント』を作ることでした。
『個人のエージェント』は各地の市場で
携帯電話の通話時間を売買するわけです。
通話時間を現金に換えることもあれば
その逆も行います。
エムペサの利用者は
購入した通話時間をSIMカードに
そしてそれを携帯電話に読み込ませます。
さらに、それを『テキストメッセージ』として
誰かに送れるようにしたのです。
誰かに送るのに
銀行のような送金手数料は発生しません。
メールなので無料です。
・エムペサの『通話時間』は
無料で誰かに送ることができる。
・エムペサの『通話時間』は
売買することができる。
『エムペサに送金機能(無料の)』を付けたのは
画期的でした。
もともとは、小口融資を目的に作られた
エムペサでしたが
・送金手数料がかからない送金手段
・銀行口座を持ってない人にも送金できる
と言うことで
都市部に出稼ぎに来ている労働者が
田舎の家族にお金を送金する手段として
『エムペサ』は爆発的に広がり
現在は、ケニアの全国民が利用していると
言う状況にまで成長したのにです。
これは、先進国では考えられない
イノベーションとなりました。
ケニアでは、多くの人が銀行口座を持っていませんが
送金をする手段はあるのです。
しかも、銀行よりもはるかに安い『無料』で。
彼らにとって、もはや銀行口座は
『必要のない物』となってしまったのです。

世界に広がるエムペサ

貧困層の支援のためにケニアで始まった
『エムペサ』ですが
その波は、世界中へ広がろうとしています。
現在『エムペサ』が使われている国は
ケニアの他に
・ガーナ
・エジプト
・コンゴ民主共和国
・モザンビーク
・タンザニア
・レソト
・アフガニスタン
・インド
・ヨーロッパ
(現在は、ルーマニアを中心とした東ヨーロッパでサービスが
展開されており、今後、西ヨーロッパでもサービスが開始する予定)
などの国々で、4000万人以上の人が利用しています。
あるアフリカの国では
政府が不正を防ぐためにエムペサを使ったり
アフガニスタンでは軍人の給料の支払いに
インドでは年金の給付などにも
エムペサは使われるようになっています。

まとめ

固定電話が当たり前の時代
先進国の人達は『固定電話がない世界』と言うのを
想像できなかったと思います。
しかし、新興国では固定電話よりも先に
携帯電話が普及したため『固定電話がない世界』
と言うのが当たり前でした。
そして、それが今
アフリカでは『銀行口座がない世界』
当たり前になろうとしているのです。
どうでしょうか?
先進国の人達は『銀行口座がない世界』
想像できますでしょうか?
おそらく多くの人達が
『銀行口座がない世界などありえない』
考えていると思います。
しかし、それを否定する現実が
今、アフリカで起きているのです。
2050年、世界の人口の4人1人が
『アフリカ人』と言う時代が来ます。
今後、世界の常識は
先進国で作られるのではなく
『アフリカ』から生まれる時代が来ます。
そう考えると
銀行のイノベーションは
先進国ではなく
アフリカから起こるのではないか?
と感じています。
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